コロナ禍以降、急速に広まった働き方が、オフィスに通勤することなく自由な場所で仕事をするテレワークです。会社に通勤せず毎日自宅で仕事をする人、または週の数日自宅で仕事をする人など、働き方が大きく変わりました。しかし、「在宅ワークだと仕事がはかどらない…」という人が急増していることも問題になっています。
そこでアドバイスをお願いしたのは、一級建築士で「部屋」にまつわる著者も多い八納啓創さん。在宅ワークに潜む問題、その解消法をお聞きしました。
■コロナ禍により変わった自宅に対する意識
コロナ禍により「在宅ワーク」をするようになった人のなかには、自宅に対する意識が変わった人もいると思います。これまで「家は帰って寝るだけの場所」と認識し、自宅の快適性といったものを重視していなかった人なら、「自宅では仕事がはかどらない…」という悩みを抱えているということもあるはずです。
その要因は様々ですが、ひとつは「明るさ」にあります。日中は職場にいるからと自宅の日あたりを気にしていなかった人もいるでしょう。人間の身体は日中の明るい時間に活動的になるようにできていますから、薄暗い環境では仕事ははかどりません。また、明るさとは別に、壁が薄い集合住宅であれば隣人の生活音が気になって仕事に集中できないということにもなるでしょう。
それから、これは住環境に関することではありませんが、とくに若いビジネスパーソンが在宅ワークになったことで、ある問題に直面している可能性もあります。それは、信頼できて頼ることができる先輩や上司が身近にいないということです。
社会人になって最初の3、4年ほどのあいだは、先輩や上司に相談したり指導してもらったりして仕事を覚える期間です。ところが、コロナ禍によって在宅ワークとなった若い人は、その重要な期間を奪われてしまいました。
もちろん、そうしたなかでもうまく若い社員を育成している企業もあると思いますが、やはり多くの若い人たちにとっては、仕事をきちんと覚えられていないなかで在宅ワークをするのはストレスになりますし、仕事がはかどらない大きな要因にもなっているでしょう。
しかし、この問題は個人で対処することが難しいものです。在宅ワークに不安を抱えている若い人なら、素直に先輩や上司に相談してみてはどうでしょうか。
■見落とされがちな人工電磁波の問題
また、意外と見落としがちなのが電磁波の問題です。自然界にも電磁波は飛び交っていますが、人工電磁波と呼ばれる、パソコンなど電化製品が発する電磁波を浴び過ぎてしまうことで健康被害を招くことを裏づける研究が、とくに欧米を中心とした国内外の多くの研究機関で進んでいます。
一方で、人工電磁波が身体に悪影響を及ぼすということについては否定的な意見もあります。ですが、現時点ではどちらの意見も決定的なものだとはいえません。そうであるなら、身体に悪影響があると懸念する声に耳を傾ける姿勢も必要だと思うのです。
ただ、オフィスに勤めている人なら心配し過ぎることはないでしょう。社員が使用するパソコンの電源プラグをきちんとアースに通して電磁波を逃がすようにしてくれている企業も多いからです。アースは、電化製品の故障などによって漏電した電気を地面に流して逃がすことで利用者が感電しないための仕組みですが、同じように電磁波を逃がすという役割も持っているのです。
でも、自宅なら話が変わってきます。みなさんは自宅で使っているパソコンの電源プラグをきちんとコンセントのアースに通しています? おそらく、そうしている人はほとんどいないはずです。
いま、ビジネスパーソンが使うパソコンは多くがノート型です。そして、デスクトップ型パソコンなら付属電源プラグにアースコードがついているものもありますが、ノート型パソコンの電源プラグにはそもそもアースコードがないことがほとんど。おそらく、ユーザーの持ち歩きやすさという利便性を優先しているからでしょう。
パソコンが電磁波を発するのは、電源プラグをコンセントにつないで起動しているときです。在宅ワークをしている人の多くが、仕事中はずっとその状態にしていると思います。そうなると、オフィスでは浴びることがなかった大量の電磁波を浴び続けているということになります。
つまり、先に挙げたような住環境の問題がとくにないにもかかわらず自宅で仕事がはかどらないという場合、その要因は電磁波にあるかもしれません。
■座り心地がいい椅子に要注意
ですから、まずは電源プラグをコンセントに挿したままでパソコンを使用することをやめましょう。1時間など仕事をする時間を決めて、パソコンを使うあいだは電源プラグを抜いておき、休憩時間に充電することをおすすめします。
そのように定期的に休憩時間を設定することにも意味があります。休憩をきちんととること自体も大切なのです。在宅ワークになったことで、仕事がはかどるようにと考えて座り心地のいい椅子を買ったという人もいるでしょう。そういう椅子を使うと、気がついたら3時間も4時間も座りっぱなしということにもなります。
でもじつは、人間の身体というのは椅子に長時間座れるようにはできていません。自然界には椅子などないのですから、考えてみればそれも当然のことですよね。実際、長時間にわたって椅子に座り続ける習慣がある人は健康寿命が短くなるとか病気になりやすくなるといった研究もあります。ですから、1時間に1回など、パソコンを充電するついでに休憩をとり、椅子から立ち上がることを意識しましょう。
あるいは、そもそも座らずに仕事をすることを考えてもいいかもしれませんね。ふつうのデスクではなく、立ったままで使えるスタンディングデスクというものを使うのです。スタンディングデスクのなかには高さを調節できるものもあり、そういうものなら座って作業したいときにはそうすることもできます。
ただ、手動で高さを調節するタイプは避けたほうが賢明です。なぜなら、結局、手動だと調節が面倒に感じて使わなくなってしまいますから、わたしからは電動タイプをおすすめしておきます。
■在宅ワークがはかどる部屋選び
また、在宅ワークをするようになったことで、なかには引っ越しを考えている人もいるかもしれません。最後に、そんな人に向けて物件選びのアドバイスをしておきます。
まずは冒頭で述べたように、日あたりが悪い部屋では仕事がはかどりません。家賃が安いからと地下の物件に住んだ知人がいますが、その人はほんの3カ月ほどでうつ傾向になって引っ越してしまいました。人間は、太陽の光を浴びてこそ健康で活動的になれます。
もちろん、音の問題にも注意しましょう。隣人の生活音が聞こえないようにしたいなら、木造と軽量鉄骨造の物件はまず避けたいところ。最低限、鉄筋コンクリート造の物件とし、そのなかから防音対策がきちんとされている物件を選ぶことを心がけましょう。
それから、高層マンションは避けたほうがいいですね。高層階の部屋は、風によってゆっくりと揺れています。その揺れは微妙なものですから、体感としては揺れを感じない人もいます。ただ、そんな人でも身体は揺れの影響を実際には受けて、「建物酔い」ともいうべき状態におちいる人もいます。
また、高層階に住むと、外出することがおっくうになることも問題です。いま、コロナ禍における運動不足解消のために厚労省も散歩など軽めの運動を推奨していますが、高層階の部屋で在宅ワークをすることで散歩に出かけることすら面倒に感じてしまう可能性もあります。そうして運動不足になれば、基礎免疫力もどんどん低下していきます。
そういう意味では、近くに大きな公園があるなど、気分転換に散歩したくなるようなエリアの物件を選ぶこともおすすめしたいですね。先の椅子選びについての話もそうですが、そもそも心身が健康でなければ仕事がはかどるわけがないのですから。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
八納啓創
やのうけいぞう1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『年間20棟以下の工務店が武器にしたい風水 アフターコロナを生き抜く経営戦略』(Kindle)、『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』(KADOKAWA)、『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。
『年間20棟以下の工務店が武器にしたい風水 アフターコロナを生き抜く経営戦略』(Kindle)
この監修者の記事一覧はこちらからの記事と詳細 ( 在宅ワークがまったくはかどらない…。それは、あなたの部屋が「健康によくない」から /一級建築士・八納啓創 - マイナビニュース )
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