JR中央線荻窪駅から徒歩6分。善福寺川の遊歩道沿いに2017年に建設された賃貸マンション「パンカフォッサ」がある。物件名はイタリア語でベンチ(パンカ)、土間(フォッサ)を合体させた造語で、物件の特徴はその名の通り。半地下になった1階の部屋には土間があり、2階以上には窓辺にベンチ棚がある。
駅に近く、個性的な作りでもあり、2階以上の部屋は退去が決まるとすぐに次の入居者が決まるほどの人気ぶりなのだが、2021年11月に空いた1階の部屋は長らく空室が続いた。その期間、なんと8か月である。
しかし、物件の企画をした有限会社PM工房社の久保田大介氏が打った一手が一気に状況を変えた。なんと改装工事に着手すると広報して1週間で入居者が決まったのである。それも家賃3000円アップである。一体、何をしたのか。
コロナ禍で遊歩道を歩く人が増えた
1階の部屋は前述した通り、半地下で土間がある。これまでは土間が受け、そこにアウトドアグッズ、仕事で使っているイベントグッズを置くなどと使われてきた。
立地や土間の魅力自体は失われたわけではなく、2021年11月に空室になって以来451件の問合せ、23件の内覧があった。だが、どうしても決まらない。特殊な事情があったのだ。
それはコロナ禍で自宅に引きこもらざるを得なかった人たちがせめてご近所を歩こうとばかりに物件の前にある善福寺川沿いの遊歩道を歩くようになったこと。1階の部屋にいると窓からその人たちの姿が見え、子どもが三輪車で通りかかると子どもと目が合うほど。これでは落ちついた暮らしはできない。
「内覧に来た人達から異口同音に同じことを言われました。これでは人通りが気になって暮らせないと。コロナ前には2週間で15件の問合せがあり、3件下見があったら決まるというペースできていたのですが、この部屋ばかりは全然ダメ。問い合わせ、内覧がないならもっと早く決断できたのでしょうが、逆に問い合わせ、内覧があるだけになかなか決められませんでした」。
窓が気になるなら、窓を開けないようにしよう
だが、さすがに8か月は久保田氏にとってもまずい新記録。そこで考えたのは窓が気になるのなら窓を開けないようにしてしまおうということ。
そこまでなら多くの人が考えると思うが、久保田氏はさらに進んだことを考えた。多くの賃貸住宅は明るく、爽やかな部屋を目指すが、反対に暗くて、その分落ち着いた居心地の良い部屋もありうるのではないかと。
実際、久保田氏の自宅での仕事部屋はウォークインクロゼットを改装した、閉め切ると暗くできる空間で、それが落ち着く。自分以外にも暗くて落ち着く部屋を好む人は他にもいるのではないかと考えたのである。
暗くて落ち着く部屋があってもいいはず
既存の部屋は半地下ながら明るくしようと白を基調に作られており、思いつく限りのあらゆる部分が白くなっている。これを徹底的に黒くし、ずっとブラインドを締め切ったままの暗くて落ち着く部屋にしようと考えたのである。
「壁紙、玄関ドアの枠、シューズボックス、エアコン、キッチンのシングルレバー、給気口、火災警報器、コンセント、部屋のフローリングなど、とにかくできるところはすべて黒またはダークブラウンにしました。といっても空室が続いているところに多額の費用もかけられないので、安価に交換できるものは交換、それ以外で可能なところはカッティングシートを貼る、吹付塗装をするという手で対処しました」。
住宅ではなく、店舗専門の工務店に依頼
面白いのは内装工事を店舗専門に手掛けている工務店に依頼したこと。住宅を手がけている工務店にはどうしても白く、明るく、爽やかな部屋を作ろうという意識が強く、意図が伝わらないのではないかと考えたのだ。
その点、店舗であれば地下店舗などを手がけることも多く、元々明るくない部屋をどう気持ち良い空間にするかというノウハウがある。
雰囲気に合わせてソファベッド、テーブル、テレビ台も用意した。物件資料のコピーは「アジトのような部屋」としたが、本当のテーマは「悪だくみしたくなる部屋」だと久保田氏は笑う。フローリングの床には長尺シートを貼り、土足のままで生活できるようにもした。
8か月空室だったのに家賃は3000円アップ
家賃は3000円アップして募集することにした。
「家具も入るし、以前の白い部屋とは全く別の部屋。他にない部屋でもあり、5000円アップは行けそう……、うまくいったら1万円アップも狙えるかもと思いましたが、8カ月空室だったことで少し控えめにして、3000円アップで募集を出しました」。
しかも、完成前だったので物件資料にはパースしかない。問合わせのあった人には入れる予定の家具の写真も送ったが、室内が分かるのはそれだけである。だが、それだけで完工前、募集開始から1週間で決まった。結果、完成後の部屋は工務店、久保田氏と入居者しか見ていない。
あえて暗い部屋という手もある
「オーナーに完成後、撮影した写真を見せたところ、これだったらもっと上値を狙えたかもしれないねと言われました。入居を決めたのはクリエイターでしたが、他にも士業その他集中して作業をする必要がありそうな方々が入居を前向きに検討してくれ、明るい部屋以外にもニーズは確実にあることが分かりました。
今後は半地下はもちろん、1階の部屋でもあえて暗い、落ち着く部屋を作ることで2階以上との家賃差を少なくしていく、無くしていくこともあり得るのではないかと思っています」。
コロナ禍でリモートワークをする人が増え、そのためのスペースを用意、あるいは意識した部屋は増えている。家の中にいても気分が変えられるようにと眺望等に気を遣った部屋なども出てきている。だが、いずれもが明るく、清潔でという賃貸住宅の王道に沿ったもの。
それとは違う、今回のような、暗くて落ち着く路線は現状の賃貸市場ではほぼない。しかし、注文住宅で居酒屋やカフェのような家を希望する人がいることを考えると、王道スタイル以外を望む人は確実にいる。今回の久保田氏の取組で暗くて落ち着く路線はひとつ、あり得ることは分かったというものである。
ちなみに今回かかった費用は家具等も入れて90万円ほど。家賃3000円アップではなかなか回収できないが、そのままにしていたらずっと決まらなかったことを考えると、家賃アップで埋められたことは僥倖。
1階にあるもう1室も同様に改装、さらに家賃アップがはかれれば今後物件売却時には有利に働く。そこまでを考えれば決して損はしない投資だったと言えるだろう。
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健美家編集部(協力:(なかがわひろこ))

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