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Sunday, July 5, 2020

「露天風呂付きの部屋を用意したのに……」予約客姿見せず、訴訟に踏み切る - 読売新聞

 鬼怒川や那須などの温泉旅館8軒が6月29日、今年の正月の宿泊予約を無断キャンセルされたとして、同一の予約者らを相手取り、損害賠償を求める訴訟を宇都宮地裁大田原支部に起こした。「ノーショー(No Show)=姿を見せない」と呼ばれる無断キャンセルは全国で問題となるが、賠償請求の費用に二の足を踏み、泣き寝入りするのが大半で、訴訟に至るのは珍しい。業界で対策の検討は進むが妙案はなく、裁判の結果への期待は大きい。(割田謙一郎)

 「露天風呂付きの部屋を用意したのに……」。栃木県那須塩原市の旅館「湯守田中屋」では、最上階から渓谷を見下ろす最高級の部屋と、自慢の炉端料理10人分を用意して待ったが、予約者らは姿を見せなかった。

 キャンセル料請求の連絡も不通で、女将おかみが被害を旅館関係の知人に打ち明けると、同じ団体のノーショーが県内で相次いでいたことが判明。被害総額は250万円に上った。田中佑治専務(27)は「普通、他の旅館の予約情報はわからないので、これまでこんな被害が判明したことはなかった」と驚く。

 栃木県の被害を聞いた静岡県東伊豆町の稲取温泉旅館協同組合が1月に加盟旅館に調査すると、昨年、少なくとも計60件(計170万円)の被害が判明。10件の被害があった旅館「石花海せのうみ」の定居宏康専務(38)は「板前が予約担当者に不満を言い、従業員同士の雰囲気も悪くなった」と嘆く。

 郵送した請求書の半数が宛先不明で返ってくるなど、今もキャンセル料の支払いはない。定居専務は「顧客情報が正しくないのか、払う意思がないのか……」と困惑する。

 旅館などのキャンセル料の督促を代行するサービスを行う北周士かねひと弁護士(38)(法律事務所アルシエン、東京)は「旅館のように被害が数万円では、弁護士費用が賠償請求額を超え、訴訟を起こすケースはほとんどない。今回のような訴訟は珍しい」と語る。

 予約者が故意に旅館の業務を妨害しようとしているのであれば、偽計業務妨害罪に抵触する可能性もあるが、妨害をするためにキャンセルの連絡をしなかったことを立証しなければならず、「刑事責任を問うのは難しいだろう」と分析する。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の大平修司・青年部副部長(39)は「ノーショーは日常的にある。ネットの普及で押さえのつもりで複数の部屋を予約し、取り消さないケースが目立つ」と話す。

 対策として「旅館が事前決済を徹底すべきだとの声がある」とする一方、「決済方法を限定すると予約の間口を狭める」とも語り、宿泊者の減少を懸念。クレジットカード決済は手数料が高く、旅館側への負担が大きいという事情もあり、大平さんは「お客様にも『予約は契約だ』と再認識してほしい」と訴える。

 今回訴訟に踏み切った「湯守田中屋」の田中専務は「今回は被害額が大きく、旅館の数も多かったので訴訟に至った。全国の旅館からたくさんの励ましを頂いている。業界の思いを背負い、この裁判をノーショーをなくす契機としたい」と話している。

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July 05, 2020 at 05:22PM
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