楽天トラベルはこのほど、「トレインビューが楽しめる人気の宿ランキング」を発表した。2021年4月1日から22年3月31日までの1年間で、「トレインビュー」「鉄道好き」「鉄道ファン」のいずれかのキーワードを含む宿泊プランの宿泊人数×宿泊日数の総計を算出したという。
こんな集計結果を出せるところがホテル予約ポータルサイトの面白いところだ。宿泊利用者の参考になるだけではなく、ホテル側も宣伝になる。いまやほとんどのホテルが自前のサイトを持ち、直接予約も可能だ。しかし他社との比較優位は表現できない。そこで予約ポータルサイトとしては、このような企画発表で存在感を示している。
まずは報道発表のランキングを紹介する。
- 1位:博多駅徒歩6分「静鉄ホテルプレジオ博多駅前」
- 2位:東京駅徒歩1分「ホテルメトロポリタン丸の内」
- 3位:西武新宿駅直結「新宿プリンスホテル」
- 4位:旭川駅徒歩2分「ホテルWBFグランデ旭川」
- 5位:京都駅徒歩1分「都シティ 近鉄京都駅」
報道資料では都道府県となっているところを最寄り駅にしてみた。公式サイトの表示にしたがったけれども、徒歩1分は直結とほぼ同じ。駅につながる建物だ。鉄道ファンなら駅名を見ただけで、路線や列車を想像できる。
博多駅・東京駅・京都駅は新幹線が見えるし、新宿はJR東日本の在来線が集結する。西武新宿駅は線路が建物の北側にあり、プラットホームに屋根があるから見えづらいかもしれない。旭川駅はJR宗谷線と富良野線だ。運行本数は少ないけれど、富良野線の列車が忠別川を渡る景色は見どころだろう。
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元「不人気部屋」でも133件ある
楽天トラベルで「トレインビュー」を検索したところ133件もあった。宿泊プラン数ではなく施設数だ。これだけの数があると「トレインビュー」だけでは上位になりにくい。
主要駅周辺には複数のホテルがあり、トレインビューだけでは競合するはずだ。立地によって列車の見え方も違うから差別化できるとして、それ以外の価格、夜景、朝食ビュッフェの充実度など、ほかの要素も影響する。
ホテル特化型メディア「HotelBank」によると、21年10月現在、日本国内の宿泊施設数は5万4772施設もあり、ビジネスホテル、リゾートホテルは増加、旅館は減少しているという。これだけの宿泊施設数のなかでトレインビューの133件は少ないけれども、そもそもトレインビューというカテゴリーがあり、集計されていることが興味深い。
なぜなら「トレインビュー」ルームは、その名が付く前は不人気部屋だと思われたからだ。理由は分かりやすい。線路のそばだから、である。
列車が走れば騒音が出る。都市部であれば終電は0時前後、始発は5時前後。静かな時間は数時間しかない。いや、旅客列車が走っていなくても鉄道は休まない。旅客列車が走らない時間帯に回送列車や貨物列車が走り、毎日とはいわないけれど保線作業がある。
古い建物であればうるさくて眠れない。新しい建物でも、静寂を好む人にとっては気になる。都市部であれば夜景も楽しみだけど、線路は基本的には真っ暗で、列車はあっという間に通り過ぎる。
だから、線路際の部屋は積極的に案内しない部屋だ。稼働率が上がったときに仕方なく使う。出張でビジネスホテルに泊まったとき、線路際の部屋に通されたら「今日は混んでいるみたいだな」「もっと早く予約すればよかった」「料金の安い部屋だからここになったんだな」など、ちょっと残念な気持ちになる人のほうが多いと思う。
シティホテルでも少し高級なところになると、トレインビュールームそのものがない。低層階では会議室、レストラン、事務室、リネン置き場、清掃員待機室になる。高層階にやっと客室がつくられるけれど、線路は真下だからよく見えない。
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鉄道ファンにとって最高の「借景」
しかし、世の中には好事家多し。線路際を好む利用者もいる。私のような鉄道ファンだ。建物だけの殺風景な景色より線路が見えたほうが嬉しい。列車の音を聴きながら眠りにつけば、まるで寝台列車に乗った気分。
朝はベッド脇のアラームより列車の音で目覚めたい。海と線路に挟まれた立地のホテルで、海が見える部屋と線路が見える部屋、どちらがいいかといえば喜んで線路を選ぶ。自分で書いていてアホだなあと思うけれど。好きだから仕方ない。
私は乗り鉄の旅に出かけるときはトレインビューにこだわらなかった。日暮れまで列車に乗り、日が昇れば列車に乗る。つまりホテル滞在は夜だけ。滞在時間も短いから、第1条件は駅から近いこと。次に値段が安いこと。景色は二の次三の次。しかし、駅から近くて値段が安い部屋は、前出の理由で線路際になりやすい。それはそれで幸運だと思うけれど、トレインビューを指定することはなかった。
しかし仕事の旅となれば、なるべくトレインビューにする。用件以外の時間は休憩するか原稿を書くか。いずれにしてもホテルの滞在時間が長くなるからだ。そんなときは鉄道の景色を楽しみたい。鉄道好きなビジネスパーソンも同様だろう。
かつてはトレインビューホテルの情報がなかった。地図を見て、線路が見えそうだなと見当をつける程度で、「線路が見える部屋がいいです」とは恥ずかしくてオーダーしにくかった。「安い部屋がいいのかな」と気を回されて、線路が見えないもっと安い部屋にされると泣けてくる。それがいまやホテル側から「トレインビューですよ」と手招きしてくれる時代になった。鉄道趣味が社会に認知されて本当に良かった。
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トレインビューはクチコミから
ホテルから長らく不人気とされた線路際の部屋が、鉄道ファンに「トレインビュー」として認知された時期は、ネットの普及がきっかけと思われる。鉄道雑誌の旅行取材で「泊まった部屋から線路が見えた」と記述されてもホテル名がなかったように思う。
1987年にパソコン通信「ニフティサーブ」が始まり、同時期に電子会議室「鉄道フォーラム」も始まったけれども、トレインビューホテル専用の会議室はない。
クチコミによる「トレインビューホテル」の認知は、インターネットとブロードバンド回線の普及が貢献したと思われる。これはほかの趣味でも共通だと思うけれども、特にトレインビューは「こんな風に見えるよ」と写真で紹介しやすい環境が必要だった。
それがブログなどで紹介され、まとめサイトがつくられるようになった。私が参考にするサイト「鉄宿!鉄道&電車の見えるホテルを徹底紹介」は、コピーライトが14年となっているけれど、その数年前からテキストベースのサイトだったように記憶している。
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私が“鉄道系ネットライター”として最初に取材したホテルは「小田急ホテルセンチュリーサザンタワー」の「まるでNゲージトレインビュー宿泊プラン/朝食付き」で、記事は10年だった。
■極上のトレインビューリゾート体験--小田急ホテルセンチュリーサザンタワー(10年6月9日付、マイナビニュース)
ホテルで最も低層となる22階の景色を、Nゲージジオラマに例えた名付けだ。しかし当時は名付けただけで、サービス自体はほかの部屋と同じ。現在は小田急8000形電車のシートを設置し、子ども向けに鉄道の制服を貸し出すなどグレードアップしている。
10年には、南海なんば駅直上の「スイスホテル南海大阪」が「Trains!電車の見えるお部屋に泊まろう!」プランを発売。秋葉原ワシントンホテルもトレインビューとNゲージジオラマを備えた鉄道ルーム「クハネ1304」の提供を開始して話題になった。
この頃からホテル側もトレインビューを意識し、11年に近鉄京都駅直上に「ホテル近鉄京都駅(現・都シティ 近鉄京都駅)」がオープンすると、近鉄電車・新幹線・JR在来線を一望にできるトレインビューが大きな話題になった。
新築ホテルも線路側を潰さずに部屋をつくり、既存ホテルもトレインビューを勧める。このようなホテルが増えて、楽天トラベルのトレインビュー検索結果「133施設」となった。「線路際のうるさい部屋」も、「線路際で列車が見える」へ。物は言いよう。逆転の発想だ。
鉄道好きの筆者の知人が小倉のビジネスホテルに泊まったら、窓の外に線路がたくさんあって大喜び。しかし、そこは有名な歓楽街「船頭町」の入口だった。知人は「旅行会社がオススメしにくいと言った理由はこれか」と驚いたようだけど、そんな穴場にもトレインビューホテルはある。
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便利なビジネスホテルが楽しい滞在型に
私は常々、すぐれた商品の要素は「便利」か「楽しい」のどちらかに集約されると考えている。その判断基準で考えると、トレインビューホテルは「楽しい」カテゴリーだ。しかし、トレインビューホテルの立地はもともとビジネスホテル。ビジネスホテルのウリは「便利」だった。
「駅に近い」「繁華街に近い」「値段が手頃」などの要素が重視された。それで十分だけれど、弱点としては「滞在型」の利用者を得にくい。用事が終わればすぐに帰ってしまう。1泊か、せいぜい2泊である。
しかし、ここに「景色を楽しむ」という要素が加わるとどうなるか。利用者は寝るためだけではなく、日中もホテルで過ごしたいと思う。「ホテルで過ごしたい」という要素は本来、リゾートホテルや温泉旅館の要素である。「夜にチェックインして、翌日の朝出発」の利用者が「夜にチェックインして、翌日はトレインビューを楽しんで、もう1泊」になるかもしれない。私も時間が許せばそうする。一日中列車を眺めるかどうかはともかく、周辺の観光や食事を楽しむとしても、トレインビューは「プラス1泊」の動機になる。
鉄道ファンにとって、トレインビューのビジネスホテルは滞在型リゾートになり得る。そこに気付けば、リゾートホテル並みの付加価値のアイデアはどんどん出てくる。鉄道にちなんだ食事を提供しよう。鉄道にちなんだグッズやおみやげを販売しよう。鉄道にちなんだ街歩きなど、オプショナルツアーを提供しよう。
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実際に、トレインビューを一歩進めて、部屋のインテリアを鉄道テーマにするホテルも現れている。渋谷エクセルホテル東急は6月30日まで「トレインシミュレータールーム」「懐かしの東急(鉄道部品展示)ルーム」「鉄道ジオラマルーム」を提供する。
JR東日本グループのホテルメトロポリタンも9月30日まで、都内4ホテルで「トレインシミュレータールーム」を販売する。浅草東武ホテル、ルネッサ赤沢(伊豆急グループ)もトレインシミュレータープランを提供中。相鉄フレッサイン 横浜駅東口は「相鉄線今昔 鉄道コンセプトルーム」、ホテル阪急インターナショナルはトレインビュー確約プランで電車形チョコレートケーキを提供する。
鉄道事業者はホテル事業も展開しているから、鉄道コンセプトルームも実施しやすく充実している。それだけに付加価値も高く料金もそれなりだけど、リゾートで遊ぶ感覚だから納得できよう。
トレインビューホテルの歴史は、「クチコミ時代」「ホテルのトレインビュー販売時代」を経て、「ホテルを鉄道コンセプトにデザインする時代」になった。もはや不人気部屋の片鱗はない。ビジネスホテルもアイデアしだいでリゾートになる。このような取り組みは東京ベイ東急ホテルと日本航空株式会社がコラボした「ウイングルーム」ほか、アニメとコラボした部屋などもある。
鉄道の場合は「線路際の部屋を景色だけで売る」というアイデアが面白い。飾れば付加価値を上げられる。しかしトレインビューは線路際の窓があればいい。これは不動産にも通じそうだ。鉄道人気があればこそ、窓から線路が見えるマンションやオフィスにチャンスありだ。殺風景? 騒がしい? いや、それが好きな人がいる。その市場が見えたらビジネスになる。
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旅行サイトも注目するトレインビューホテル
楽天トラベルのトレインビューホテル133施設を再構成して一挙掲載しようと思ったけれども、それなら検索結果のリンクを貼った方がラクだし(身も蓋もない)、リンク先は最新データになるはずだ。参考まで他社の旅行サイトも紹介する。
旅行業界にとって「トレインビュー」がキーワードとして認知されている。
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