Photographed by tsubottlee
東京は、埼玉や千葉に隣接していて区外へのアクセスも良い葛飾区。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や「男はつらいよ」など人情溢れる下町を連想される方も多いのではないでしょうか。
そんな街の最寄駅から歩いて10分ほど、商店が並ぶ通りに、今回ご紹介する松本さんご家族の住まいはありました。
ご家族の縁ある物件をリノベーションし、元の住まいのよさは活かしつつ、おふたりの色や生活に合わせて手を加えた、住みよいお部屋ができあがっていました。
受け継がれてきた住まいやアイテムに、遊び心も加えられたそのお部屋づくりについて、お話を伺っていきます。
この場所に決めた理由
家族の思いを継いだ家
床の間には、悠さんの曽祖父母が営まれていたという精米業の仕事道具が。もともとこの土地で米屋を営んでいたそうです。
「これまで大事にしてきた土地ですから、他の誰かに売ってしまうくらいなら、我々夫婦で維持していこうと話し合って決めました」(悠さん)
歴史ある建物は活かしつつ、リノベーションで自分たちも生活しやすい住まいを目指すことになった松本さん夫妻。
ちょうど、紗さんの出産と重なるタイミングで、慌ただしく計画から施工まで進めていくことになったのだそう。
お気に入りの場所
天窓で明るく、造作で使いやすい台所
玄関からリビングに入ってすぐに目に入るのが、優しい光が注ぐキッチンスペース。
元からあった天窓の下は、おふたりが1日の生活リズムを整える上で、大切な空間になっています。
「日当たりがあまり良くない1階、かつ北向きの台所は、天窓のおかげで、温かい光が差し込むので、夫婦で気に入っています。
曇天の日でも薄陽が差し込むので、朝、ここでお茶を飲んで1日の気持ちを作る場所でもあります」(紗さん)
台所収納は使いやすさも意識して、設計段階からこだわりがあったのだそう。
「使いたいと思っていた無印良品のユニットシェルフとワゴンのサイズに合わせて、キッチンを造作してもらいました。ピッタリに収まって、見た目もよくなりましたね」(紗さん)
悠さんが選ばれたという、キッチンカウンター横のグリーンタイルも、キッチンの雰囲気をグッと惹き出してくれています。
「自分たちオリジナルのキッチンであることを考えると、料理する時の気分も上がりますね」(紗さん)
友人といっしょでも食卓を囲めるダイニングスペース
キッチンと連結しているダイニングテーブルは、結婚前に旅先で購入されたという、思い入れのあるインテリア。
「栃の木のダイニングテーブルは、軽井沢にある小さな材木家具屋さんで、ふたりとも一目惚れして衝動買いしました。
当時はまだ賃貸で、この机を置くと部屋も余白が無くなってしまうほどだったのですが、広い家に引っ越すことを想定して、なんとか使っていましたね」(悠さん)
ご自宅への来客も多いおふたりだからこそ、このテーブルの大きさは購入の決め手となったといいます。
「800mm×1500mmほどの大きさですが、詰めれば6~7人くらいで座って、いっしょに食事ができるので、友人が来てくれた時も重宝しています。存在感があって、お部屋の象徴的なインテリアになってくれるんです」(悠さん)
リノベ前から使われてきた掘りごたつ
リビングスペースに設けられたこたつは、当初からある掘りごたつをそのまま利用したもの。
季節に合わせて使い分けられる便利なスペースになっています。
「リノベーション計画時は無くそうと話していましたが、収納できるように作ってもらうことで、残すことにしました」(悠さん)
机の角度を変えると綺麗に収まり、床下収納へと変わる便利な構造。
「掘りごたつとして使わない時も、すっきりと見せることができて気に入っています」(悠さん)
この冬は、お子さんが眠った後、掘りごたつでくつろぎながら夫婦の時間を楽しまれているそう。
仕事や作品に集中できる青のワークスペース
1階の悠さん用のワークスペースと、2階の紗さんがアトリエのように使われている洋間スペースは、どちらも青の壁紙が印象的。
「最初は、1階のワークデスクのみに、青いアクセントクロスを使う予定でしたが、私も作品を展示する壁として映えるかと思い、洋間は全面を青くしました」(紗さん)
古代文字アートを描かれている紗さん。作品を創り出すのに、この空間がピッタリだったそう。
「作品はこの部屋を中心に製作することが多いのですが、この色のおかげか他の場所より、集中できる気がします」(紗さん)
洋間の収納は、以前から使われている桐箪笥をそのまま使用。
状態も綺麗だったため、そのまま残されたとのことでしたが、昔からの色合いと、リノベーションによって新たに加わった青色とのコンビネーションがなんとも魅力的でした。
お気に入りのアイテム
目を引く手のオブジェ
賃貸から戸建の住まいに変わるにあたり、壁面の一部に飾れたらと購入されていたのが、「WEST VILLAGE TOKYO」の手のオブジェ。
「飾るなら陶器のオブジェが欲しいなと思って探していたところ、ネットで一目惚れして2種類購入しました」(悠さん)
「玄関とリビングの壁面に取り付けていますが、それぞれ目を引くインテリアとして大活躍してくれて、オススメです」(紗さん)
遊び心溢れるアート作品が、おふたりの住まいにもピッタリですね。
ご家族から譲り受けたアート
リビングのテレビボード上に並ぶ作品の中で、紗さんが思い入れのあるアート作品として紹介してくださったのが、ご家族から受け継がれたもの。
「社会人になってから間もない時に、祖父からお譲りでもらったアートです。作者も不明で何もわからないまま実家にいた頃から、自分の部屋に飾っていました」(紗さん)
「なぜか見ると引き込まれてしまい、いつもパワーをもらってます。結婚後も私が持っていたいと思い、実家からいっしょに出てきました。私にとって、心の相棒のような作品です」(紗さん)
表情豊かに見えるアカシアの無垢フローリング
リノベーションをする中で、おふたりがこだわられていたのが床や壁の素材感。なかでも無垢のフローリングは、選んでいかれる上で、「これだ!」と即決された。
「メンテナンスで気にかけることは、クッションフロアより増えますが、やはり本物の素材がいいと思って、決めました。アカシアの無垢フローリングは、深みのある茶色と、目地が細かい分、床の表情が豊かに見えるところが好きで気に入っています。」(悠さん)
残念なところ
昔の家のつくりから、気になる断熱性
設計段階で分かってはいたものの、実際に暮らす中でより気になるようになったと話していたのが、冬の寒さです。
「1階の日当たりがあまり良くないうえに、昔の家のつくりなので断熱材が薄く、冬はとても寒いのが残念でした。工事の際に1階の窓は二重窓にしてもらいましたが、それでも、冬場のガス代を初めて見た時は驚きましたね」(紗さん)
玄関階段の狭さ
あわせて元の設計上、手を加えられなかったと話すのが、玄関スペース。
傾斜が急で、踏面の狭い階段は生活する上で、少し不便に感じるポイントなのだそう。
「本当は玄関を広く取りたかったのですが、構造上難しくて……。階段も手入れはしたのですが、自分の足だと踏面からはみ出してしまうので、少し安全性が気になります。
階段スペースは吹き抜けにもなっているので、圧迫感はないのですが、次に自分たちの住まいをつくる機会ができた時には、広い玄関も実現させたいですね」(悠さん)
暮らしのアイデア
生活動線を意識した間取りづくり
自分たちの暮らしに合わせたリノベーションを考える上で、特に意識されたというのが、生活導線だと話すおふたり。
「1階の浴室は、元々キッチンからしかアクセスできない不便な作りになっていました。今回、リビングと和室、脱衣所とそれぞれ分けられていたものを、扉を追加したり壁を壊したりして全て回遊できるようにしています」(悠さん)
洗面スペースは、家事が行いやすいように作業台を広く設計。
「洗濯物をたたんだりするために広く取りましたが、今だと、子どものおむつを変えるスペースとしても役立っています」(悠さん)
本来、洗面台とセットであることの多い洗濯機は、リビングとの間に設置されていました。
こちらも生活動線を意識した上で、住まいの構造上無理のない範囲で変更されたそう。
また、ロールスクリーンを使って、洗濯機の存在感を無くすことも可能に。
小さなお子さんがいることや、来客が多いことなど、おふたりの暮らしにあわせて、使いやすくアレンジされたスペースですね。
これからの暮らし
自分たちで手を加えながらよりよい空間に変えていきたい
今回のリノベーションで、施工期間や時期の関係から、手をかけられなかったというのが、室内の壁面。
「妻の出産時期と被っていて、時間や手間のかかる壁は相談できず、自分たちで手をかけていこうと思っていました。もう少し子育てにも余裕が生まれた際には、漆喰で温かみのある色に塗り替えたいです」(悠さん)
自分たちらしい空間のためには、好きな物も増やしながら考えて行きたいと話す紗さん。
「お部屋で寛ぐためのデイベッドや、まだ多くは取り入れられていない古材や古道具の雑貨も増やしていきたいと考えています」(紗さん)
ゆくゆくは、人に貸すことができる住まいとなるよう、大切に使いつつ、今後はこの住まいでは叶えられなかったおうちづくりや、お気に入りの街での暮らしにも挑戦していきたいという松本さんご家族。
家族の成長とあわせて、住まいと暮らし方もどのように描かれていくのか。まだまだ多くの挑戦と期待感に、こちらも胸を踊らされるお部屋でした。
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