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Friday, January 5, 2024

ラトビア出身の30歳女性バックパッカーが「1畳半の“持ち運べる部屋”」で暮らすワケ - Business Insider Japan

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モバイルセルに住む、カリーナさん

撮影:阿部健

東京・三軒茶屋駅(世田谷区)から歩いて約10分。閑静な住宅街に、一風変わった古民家が出現する。

よく見ると、本来の建物以外に何やら小屋らしきものが……実はこれ、「モバイルセル」と呼ばれている「持ち運べる部屋」なのだ。

三軒茶屋の住宅街にある通称「ろじ屋」。“衣食音住美”をコンセプトとし、複数の店舗が同居する複合型店舗兼住宅だ。

三軒茶屋の住宅街にある通称「ろじ屋」。“衣食音住美”をコンセプトとし、複数の店舗が同居する複合型店舗兼住宅だ。

撮影:阿部健

“軽トラサイズ”のモバイルセルで現在生活しているのは、ラトビア出身のカリーナさん(30)。なぜここで暮らすことを選んだのか。住まいの固定観念を取り払ったことで、どんな変化や気付きがあったのか。

仕掛け人である、ライフ建築集団SAMPO Inc.の建築家・塩浦一彗さんとともに話を聞いた。

持ち運べる部屋……?

中央にあるのが「モバイルセル」と呼ばれている小部屋。大きさは横2.4メートル、奥行き1.4メートル、高さ1.9メートルほど。

中央にあるのが「モバイルセル」と呼ばれている小部屋。大きさは横2.4メートル、奥行き1.4メートル、高さ1.9メートルほど。

撮影:阿部健

モバイルセルは、文字通り“持ち運べる部屋”。トイレやお風呂、キッチンなどはついていないため、生活に必要なインフラを担う母屋「ハウスコア」とドッキングして生活する。

セル(部屋)自体は、トラックに乗せて移動させたり、他のハウスコアへドッキングしたりと、どこへでも自由に動かすことができる。

現在、ハウスコアの役割を果たしている三軒茶屋にある「ろじ屋」に設置されたモバイルセルに暮らすのは、都内の有名建築事務所に勤務するカリーナさんだ。

バルト三国の一つ、ラトビア出身のカリーナさん。

バルト三国の一つ、ラトビア出身のカリーナさん。2023年8月からモバイルセルで生活している。

撮影:阿部健

部屋の大きさはおよそ1畳半。大人一人が横になるとぴったりくらいの大きさだ。

エアコンやホットカーペットを完備していて、季節問わず快適。むしろ大きくない分、温度をコントロールしやすいという。

「不便なことと言ったら、雨の日に母屋に移動する際、ちょっと濡れてしまうこと。

洋服を母屋の部屋のクローゼットに置いているから、取りに行くのが面倒くさいこと、くらいかな(笑)」(カリーナさん)

他は“とにかく楽しくて満足”といった様子だ。

特に気に入っているのは、部屋自体がオープンになる構造。目の前のストリートと一体化することで、半分外にいるような気分になれるのだという。

部屋の中央に外に開く扉がついている。天気の良い日は外との一体感を楽しむことも多い。

部屋の中央に外に開く扉がついている。天気の良い日は外との一体感を楽しむことも多い。

撮影:阿部健

「自分の暮らしが、ある種の“パフォーマンス”のように見えるのも面白いですね。逆に、閉め切って自分の世界にどっぷり浸かる時間も好きです」(カリーナさん)

部屋の中には壁面に折り畳める台があり、ちょっとした作業や物置に使用。仕事やミーティングをここで行うことも。

部屋の中には壁面に折り畳める台があり、ちょっとした作業や物置に使用。仕事やミーティングをここで行うこともある。

撮影:阿部健

室内は決して大きいとは言えないものの、「好き」が溢れる、カリーナさんだけの小空間だ。

「自分で描いたイラストなども飾っています。 自分にとって“最低限必要なもの”、“大事にしたいもの”だけを置くようにしているんです。

ものを取捨選択できるようになったのは、バックパッカーをしていた経験も大きいかもしれません」(カリーナさん)

「ポータブルな暮らし」に憧れて

室内の壁には、尊敬する日本画家・山口晃さんの作品集も。

部屋の中の壁には、尊敬する日本画家・山口晃さんの作品集も。

撮影:阿部健

カリーナさんは、18歳で母国を出てデンマークとイギリスの大学に進学し、その後バックパッカーとしてヨーロッパと東南アジアのほとんどの国をまわるなど、頻繁に移動しながら暮らしてきた。

3年ほど前には、4カ月間京都に留学。その頃Instagram経由で知り会ったのが、このモバイルハウスを企画・制作しているSAMPOの建築家・塩浦一彗さんだ。

カリーナさんが投稿していた建築デザインのドローイングが、驚くことに「ろじ屋」の世界観そのものだったのだ。

カリーナさんが描いていた“持ち運べる部屋”のようなイラスト。

カリーナさんが描いていた“持ち運べる部屋”のようなイラスト。

本人提供

「京都に留学していたときから、いつか誰かのために、モバイルハウスを作りたいと夢見ていたんです。

宮崎駿さんの世界観や日本の路地裏の空気感が大好きで、ポータブルな暮らしに憧れていました」(カリーナさん)

「『ハウルの動く城』の世界観も大好き」と、カリーナさん。

「『ハウルの動く城』の世界観も大好き」と、カリーナさん。

撮影:阿部健

塩浦さんは、同じ想いを持つカリーナさんに、次に“東京に来る機会があったら教えて”と伝えた。

2023年2月に念願の対面を果たすと、流れに乗ったようにカリーナさんは日本で建築関連の就職先を見つけ、2023年8月末からこのモバイルセルに住むことに。

「夢が叶った以上の衝撃的な出来事でしたね。

今後は、モバイルセルを軽トラに乗せて、一緒に日本中を旅したいです。京都には思い入れもあるので、ぜひ行きたいです」(カリーナさん)

なぜ、モバイルハウスを作ったのか……?

SAMPO Inc. 共同創業者でArchitectの塩浦一彗さん

SAMPO Inc. 共同創業者でArchitectの塩浦一彗さん。1993年生まれ。ミラノの高校を卒業後、ロンドンに渡りロンドン大学バートレット校にて建築を学ぶ。2016年9月に帰国。建築新人戦2016最優秀新人賞を獲得。建築事務所を経て、ライフ建築集団SAMPO Inc.を村上大陸さんとともに設立。

撮影:阿部健

そもそも、モバイルハウスはなぜ作られたのだろうか。

SAMPOで建築設計を担当する塩浦さんは、“人が住む場所”の家が、高くてなかなか購入できない上、一度買うと固定化されて動かしにくい。この状況に、10代の頃から疑問を抱いていた。

そして、解決策がないことにも葛藤があった。「だったら可変的な家を作ったらどうだろう?」と考えた彼は、その後イギリスの大学で建築を学ぶ。

帰国後、現在のSAMPOの代表・村上大陸さんと出会い、モバイルハウスの構想を聞くやいなや、すぐに「これだ!」とピンと来た。翌日には共同で事業化することを決め、早速自分たちでモバイルセルの1号機を作り始めたという。

モバイルセルは完成品を提供するわけではない。住人と一緒に作り上げるところに面白さがある。

モバイルセルは完成品を提供するわけではない。住人と一緒に作り上げるところに面白さがある。

SAMPO inc.

Z世代と言われる世代でもある塩浦さんは、「暮らしに合わせて住む空間はどんどん変わっていくべき」と語る。

変化が激しい世の中において、自ら住処をアップデートできる自由な発想とスキルを持つ。この大切さは、「ろじ屋」を“リビングアーキテクチャー”と表現したり、モバイルセルの一部を住人に作ってもらったりすることにも表れている。

「現代は、自分の手で自分の部屋を作るという、生きるために必要な体験が抜け落ちちゃっているような気がします。

量産されたプロダクトを使うよりも、自ら作る“体験”が大事だと思っています」(塩浦さん)

現在、塩浦さん含む6名が暮らす「ろじ家」でも、住む人に合わせて何度も内装や構造をアップデートしてきた。

現在、塩浦さん含む6名が暮らす「ろじ家」でも、住む人に合わせて何度も内装や構造をアップデートしてきた。

撮影:阿部健

「住まいは、もっと自由でいい」

「今の若い世代にとって、自分の理想とする住まいや暮らしを手に入れることは、金銭的にも簡単ではありません。でもそれは“作られた、完璧なもの”を手に入れようとするから。

モバイルハウスなら、家を買うよりもはるかに安い価格で自由に作ることができます。

東京という大都市でも、すき間や空きスペースを活用して自由な暮らしができるという考えが浸透すれば、都市生活はもっと充実する。スクラップ&ビルドではないサステナブルな暮らしになっていくと思うんです。

住まいは、もっと自由でいいと思う」(塩浦さん)

モバイルセル画像

SAMPO inc.

今後は、「ハウスコアやモバイルセルを増やして、もっと多くの人が体験できる場所を増やしたい」と塩浦さんは語る。

もしかしたら数年後「ろじ屋」の前を通ったら、今よりも拡張されているかもしれない。筆者が塩浦さんにそう言うと、「いや、むしろなくなっているかもしれないですよ」とあっけらかんと笑った。

住まいは、もっと自由でいい──Z世代の柔軟な価値観は、暮らしの在り方を塗り変えていく。

【Instagram:ろじ屋SAMPO

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