新型コロナウイルスの影響で飲食業界が不況に陥る中、調理販売できる「キッチンカー」に注目が集まっている。「３密」回避でテークアウトへの需要が高まり、経営の手軽さもあって、起業を目指す若者や飲食店の関心も強い。大手キッチンカー販売会社の受注数は、昨年から倍増。兵庫県内の自治体も、にぎわいづくりなどへの貢献に期待し、業者の支援に乗り出している。（小谷千穂）
「『来てもらう』姿勢から、こちらから『出向く』方に意識が変わった」と話すのは、神戸・三宮に神戸牛ステーキ専門店を３店舗構える「バンガロー」代表の川添義人さん（４３）。コロナ不況で店舗全体の売り上げは７割減。元々興味があったキッチンカー事業に乗り出した。
５月には神戸市の飲食店支援事業の一環で、同市西区の団地に出店した。ステーキを提供し、多い日は１日２００食を販売。想定以上の売れ行きに、川添さんは「普段来られない人に楽しんでもらえる。可能性を感じた」と手応えを語る。
■相次ぐ参入
キッチンカーは、コンロや水道、フライヤーの調理設備が付いた車両で、車内で丼やラーメン、クレープなどの食べ物を調理して客に提供する。音楽フェスや野外イベントの会場のほか、ビジネス街の路上やマンションの敷地内で許可を取って営業する。
テークアウトが好まれるコロナ禍の中、キッチンカーへの参入が続いており、キッチンカー販売大手の「フードトラックカンパニー」（東京都）によると、１カ月の受注数は例年の平均約１０台に比べ、今年４月以降は２倍の２０台に。神戸市東灘区で１０、１１月に開かれるグルメイベント「キッチンカーコレクション」も、「例年より新規の問い合わせが増えている」（主催者）という。
一方で課題もある。バンガローの川添さんは「猛暑や台風など悪天候に左右されやすい」と指摘する。また駐車スペース確保のハードルも高い。
■無償レンタル
コロナで打撃を受けた飲食店を支えたい自治体も、キッチンカー支援に乗り出した。神戸市は５月に、市内の飲食店にキッチンカーを無償で貸し出す実証実験を実施。２カ所に３台ずつ出店すると、２週間で５千人以上が訪れた。９月からは、規模や期間を拡大して再び実施する予定という。
洲本市は、ホテルや飲食店への出荷が減った地元の畜産物や野菜を、関西のキッチンカー事業者に使ってもらう仕組みを考案。生産者と業者をつなぐほか、生産者の配送経費と業者の食材購入費の一部に補助金を出す。
県外では、東京都がキッチンカーによる都立公園での飲食物販売を７～１１月まで認める。また神奈川県や長野県なども、キッチンカー開業への助成金支給を決めている。
地域活性化への貢献に対する期待も高まっている。神戸・三宮の再開発事業では、歩道を広げてベンチを置く設計に。神戸市の担当者は「キッチンカーを中心にした、にぎわいづくりも視野に入れている」とする。課題も踏まえつつ、定着への模索が続く。
開業コスト店舗の３割以下 >>
キッチンカーは、店舗に比べて開業しやすい。家賃がかからず、人件費も抑えられるからだ。フードトラックカンパニーによると、一般的に開業まで約１年かかる店舗と比べ、１～３カ月で始められるという。開業コストも店舗の１千万円以上の３割以下だ。
一方で、長く続けるためには開業時のノウハウが重要となる。そのためキッチンカー関連企業や自治体は、こぞってセミナーや説明会を企画する。
大阪・梅田では今年６月、キッチンカーカフェ開業支援の専門スクールも誕生した。キッチンカー支援事業を担う一般社団法人と、カフェ開業支援の専門スクールを運営する企業が共同で設置。現在は１期生が週１回、メニュー開発や運営方法を学んでいる。
自然食弁当やソーセージを販売する「ミユキデリカ」の池田美由起さん（３７）＝芦屋市＝は、神戸市主催のセミナーを経て２月にキッチンカー事業を開始。「地域によって利用者の好みが違ったり、人通りが少なかったり、場所の選定が難しい」と経営の難しさを実感しつつ、「場所を変えられるのは強み。どんどん挑戦したい」と意気込む。（小谷千穂）
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August 22, 2020 at 12:30PM
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「キッチンカー」に熱視線 「３密」回避、手軽に飲食店起業 - 神戸新聞
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