ドラえもんのぬいぐるみやテレビのリモコンが置かれたソファ。
机にはタブレットとコカ・コーラの空のボトル、その周りには14組のくつ。
東京都現代美術館(江東区)で10月16日まで開かれているグループ展「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」。アーティスト、工藤春香さん(44)の作品が展示された一角にある「尾野一矢さんの部屋」には、尾野さん(49)の日常に欠かせないお気に入りのものが並ぶ。
知的障害と自閉症がある尾野さんは、2016年7月の「やまゆり園事件」で重傷を負った。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で暮らしていた19人が刺殺され、職員を含む26人がけがをした事件。約2年前に園を出て、障害者福祉の公的サービス「重度訪問介護」などを利用しながら、いまは神奈川県座間市内のアパートで1人で暮らす。
展示室のソファに置かれたTシャツは、尾野さんがふだん着ているもの。ほかは尾野さん宅を訪れたときの様子をもとに工藤さんが用意した。くつは、身の回りの世話をしている14人の介助者を表現している。日ごろの尾野さんの部屋の雰囲気を再現した。
「一矢さんの生活の細部を見てもらうことで、障害者という記号ではなく、生きて存在する一矢さんという人間を想像してほしかった」と工藤さんは話す。
「部屋」につながる空間には、長さ20メートルの白い布がうねるように据えられている。布の片面には、1917年からいまに至るまでの障害者にかかわる政策や法律、事件などの年表を、もう片面には1878年からの障害者運動を中心とする年表を印刷した。工藤さんが公文書や論文などを自分で調べたという。
布をはさんで配置したソファなどは、尾野さんがやまゆり園で過ごした共同スペースをイメージした。見上げると、両袖を広げた白いTシャツが宙に浮かぶ。
布を施設の「壁」に見立て、施設から地域へと飛び越えていく尾野さんを表現したという。
「個人の暮らしは社会構造と密接に関わり、長い歴史の一つです。年表を読み進めると、一矢さんの部屋にたどり着くようになっています」
工藤さんは、東京芸術大学美術学部絵画科を02年に卒業し、「社会構造と個人」を主なテーマに創作活動を続けてきた。現在は、公立小学校の特別支援学級で非常勤講師も務める。
障害のある人たちを巡る作品に本格的に取り組んだのは、やまゆり園事件がきっかけだ。
事件のとき、工藤さんは翌月…
からの記事と詳細 ( アートで問うやまゆり園事件 被害者の「部屋」から見えるものは:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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