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Thursday, April 14, 2022

滞在中、部屋の清掃はなし。外に一歩も出られない。人の顔も一切見ない。3日目、「こころの健康スクリーニング」で診断した。 記者の新型コロナ療養レポート(後編) | 鹿児島のニュース - 南日本新聞

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4月1日の夕食。タルタルソースをかけた鶏肉、ソーセージ、塩スパ、さつま揚げ、酢の物

4月1日の夕食。タルタルソースをかけた鶏肉、ソーセージ、塩スパ、さつま揚げ、酢の物

 (前編から続く)

 ◆ごみ回収もシステム化【4月1日(金)】

 食事の配膳のほか、ごみの回収もシステム化されている。日に数度、「ただいまよりごみの回収をいたします。客室の外にあるものは全て回収します」と放送が流れる。

 ホテル滞在中、清掃など部屋には一切、人の立ち入りはない。ごみは1日に何回か、袋に入れ、廊下に出しておくと片付けてくれる。口は二重にしっかりと縛る決まり。「ごみを廊下に出された後は再度触れることなく、すみやかにお部屋の扉をお閉めください」「食べきれなかった弁当も衛生上の理由から部屋に残すことはせず、ごみとしてお出しいただきますよう」の注意も流れる。

 個室から一歩も出られないし、人の顔も一切見ない。閉鎖的な空間に我慢できない人はいるかもしれない。そのためか、入所3日目には「こころの健康スクリーニング」を使って健康チェックをするよう促される。(1)神経過敏か(2)絶望的か(3)そわそわ落ち着かないか(4)気分が沈みこむか(5)何をするのも骨折りか(6)自分は価値のない人間と感じるか-。6項目を点数化し、合計10点以上あれば「新型コロナに関する心のケア相談」か「県精神保健福祉センター」に電話相談を、と呼び掛けている。ちなみに私は1点だった。

 ◆日本国憲法を考える【2日(土)】

 のどの違和感、たん、せきは若干残る。

 単調な毎日であることは覚悟していた。長いこと積ん読していた本5冊を持ち込み、足腰を弱らせないよう立ったまま読む。1時間に1回は椅子で20回の踏み台昇降をする。目が疲れると、詩の暗唱をした。寝る前は数独だ。超難問を一心不乱に解くと、あっという間に時間は過ぎる。窓から見える風景を日記帳にペンで描き入れる。

 暇なだけに、コロナ療養についてあれこれ思いを巡らせた。自宅までの迎え、ホテル滞在にかかる費用など全て自己負担を伴わないことに申し訳ない思いがする。一方で「入所のしおり」には宿泊施設から逃げ出した場合、「保健所より入院の勧告が行われ、この入院の勧告に従わない場合、入院措置(即時入院)となる場合があります」と記載がある。私権の制限がどこまで許されるのか。

 考えが及んだのは日本国憲法だ。13条で「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とうたう。感染拡大は「公共の福祉」に反するだろう。だから「個人として尊重される」部分が制限されるのだろうか。

 さらに憲法25条は第1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有する、とし、第2項で「国はすべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とある。ホテル療養はこれらを頭に入れると、なんとなく腑(ふ)に落ちる。

 ◆夜9時の「おやすみなさい」【3日(日)】

 ニュースでコロナ感染増加の兆し、と報じている。東京は5日連続で上昇傾向という。

 療養ホテルは、たまたまだったが両親の住むマンション近く。そこで母に頼み、ここ2日分の南日本、朝日、日経3紙を差し入れてもらう。差し入れは療養中に1回のみ。前日の夜までに常駐の保健師に中身を連絡し、翌日朝に持ってきてもらう。昼食の弁当とともに、客室廊下に置かれる。

 差し入れ可能なものは菓子類、本、筆記用具、日用品、薬、コーヒー、ジュース類。不可は生ものなど腐りやすい食べ物、酒、タバコ類、デリバリーサービス、ネットショッピングの利用など。母によると、ホテル通用口で受け取りに現れたスタッフ3人も防護服だったらしい。

 夜はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見た後、BSで007映画のダニエル・クレイグ主演第1作を0時近くまで視聴して就寝。ホテル入所開始以来、この日まで夜9時の館内放送「みなさまこんばんは。(略)本日も看護師が常駐しております。体調が悪くなりましたらフロントまでお知らせください。それではみなさまおやすみなさい」に癒やされ、ほぼその時間が過ぎると寝ていた。体調が万全でなかったこともあるだろう。ただ残り数日を切り、初めて夜ふかしした。

 ◆明日は退所【4日(月)】

 朝から数独難易度五つ星をクリアして気分が上がる。

 ホテルの内線電話で県のスタッフから「あす朝出られます。あす1日は待機を。あさってから仕事はできます。心配なら保健所に相談してください」と伝えられる。

 原則、発症日から10日間経過し、かつ症状軽快後72時間経過すると退所が可能になるという。最後の一日を心して過ごす。

 ◆外はまぶしかった【5日(火)】

 午前9時から9時半の間にホテル退所となる。上がってきた時は1人ずつ乗っていたエレベーターに、同じ階の客室から出てきた4人が一緒に乗り込んだ。

 エレベーター内はみな沈黙していたが、それぞれ安堵(あんど)の表情だったに違いない。

 ある新聞の歌壇欄に投稿されていた作品「初めてのコロナ感染長かった十日が終わり明日は出社す」を思い出す。ホテルの外はまぶしかった。

 ◇

 鹿児島県は新型コロナウイルスの症状が軽症や無症状の人を対象に、宿泊療養施設(ホテル)を準備。4月8日現在、県内には19カ所(うち鹿児島市8カ所)、1757室がある。

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